専務取締役の森谷裕二は、職人から「番頭」と呼ばれる施工管理者となり、東陽工業の現場を切り盛りしている。この業界でもっとも大切と言える工事現場、そこで活躍する職人さんたちとの関り方を中心に話を聞きました。
私はもともと職人で20年間ぐらいの経験がありました。それからこの業界では「番頭さん」と呼ばれる、現場管理をする施工管理者になりました。 それまでも、職人として職長をしながら現場管理的なことをやっていましたが、40歳になったときに、本格的に番頭としての仕事をしたいという思いもありました。今思えば、リーマンショック後で不況の影響もあったと思います。ちょうどその時に知人を通して東陽工業から話があり、入社する事になりました。
スポーツでは「名選手、名監督にあらず」と言われますが、この仕事にも当てはまるかもしれません。施工能力は高くても人付き合いが苦手など、良い職人さんが優秀な番頭さんになれるわけではないのです。 たまたま私は職人との人付き合いには慣れていましたし、人や工期を管理する仕事には向いていたのかもしれません。
スケジュール管理や品質チェックなど、気にする部分はたくさんあります。しかし最も気を付けているのは、職人とのコミュニケーションです。職人に対して、こちらは頼む側になるのですから気持ち良く仕事をしてもらわないといけません。 具体的にはその人に合わせて言い方や、接し方を変えるなどをしています。人手不足の今、これは大切です。
それはたくさんありました。職人と番頭では同じ現場にいても、まったく立場が違います。ひとつ例を挙げれば、番頭になると売上に対するノルマが課せられました。これは職人時代にはなかったものです。サラリーマンになったわけですから、売上げて利益を出すことが課せられました。最初の頃はお付き合いのあるお客様もいない状態だったわけですから。 一方で、管理やお金の計算といったデスクワークは苦になりませんでした。遅めのタイミングでキャリアを変えたのですから、その危機感もあり余計に頑張ったというのもありました。番頭としての最初の2年間は、先輩たちに追いつくため人の2、3倍は働いたと思います。
まずは現場での職人さんとのコミュニケーションです。職人さんと一緒にご飯を食べたり、飲みに行ったりもします。現場以外に、デスクワークも当然あります。これらは前職とまったく同じ仕事内容になりますので、経験をさらに高めています。 忙しくても現場にはきちんと目配りはしないといけません。それができていないため現場がうまくいかないケースもありますので、そこにはかなり気を付けています。とはいえ体はひとつなので、会社の方で現場をきちんと見ることができる人材を強化してくれています。
年上の人も多いので、話し方など気を付けています。自分の年齢とともに周囲との関係性も変わってきますが。周囲との接し方は自分の年齢に応じた形でも、工夫しています。 それと何かトラブルが起こった場合、お客様に説明や謝罪に行くのも番頭の大切な役割です。そういうことがあると気が張り詰めているので、ふだんは気を楽にして、リフレッシュするように心掛けています。 工事が完成して清算などの事務作業も終えて、なんの不備もないことを確認した時の達成感は、何ものにも代えがたいものがあります。また自分たちの業界は建築工事の後半部分なので、台風などで工期遅れのしわ寄せが来ることもあります。そうした遅れを、お客様や職人と協力してリカバリできた時は、お客さまにも特別に喜んでいただけて、とても嬉しいものです。
繰り返しになりますが、やはり現場でのコミュニケーションです。現場にはできるだけ顔を出すようにしています。私たちの会社はそれを認めてくれる環境です。 現場と密に接することで、問題が出ている場合には早めの発見もできます。こうしたことは前職やさまざまな現場で、上手な施工管理をしている先輩から学んだものです。現場に行くたびに見るポイントや視点を変えるというのも教わりました。 職人だけでなくお客様とも友達のように親密な関係を築けるようにする、というのも目標にしています。もちろん仕事をきちんとこなした上で、というのが大前提ですが。若い人たちにも、仕事をきちんとする事の大切さについては厳しく指導しています。